オンリーワンを追及する気鋭の女性SSW ソヌ・ジョンア『IT’S OKAY, DEAR』
以前「mutants」で、大人向けのK-POPの注目株Lunchsong Project(プロデューサー&作曲家、クォン・テウンのソロプロジェクト)を取り上げたが、実はもうひとり、同じ方向性のアーティストでおすすめがいる。2013年春、本国で約6年半ぶりにフルアルバム『IT’S OKAY, DEAR』を発表し、再始動した女性シンガー・ソングライター、ソヌ・ジョンアだ。
前作『Masstige』(2006年9月リリース)は、非凡な才能を発揮した曲がいくつかあったが、他の人が歌っても大丈夫そうな普通の曲も入っている玉石混交の1枚だった。それゆえに大きな反響を得られなかったのか、ソロ活動は一旦休止。裏方に回った彼女は、2NE1やイ・ハイなど、有名アーティストに作品を提供するほどの売れっ子となるが、この時期があったからこそ、自分がやりたい音作りがはっきり見えたのだろう、満を持して発表した『IT’S OKAY, DEAR』は、「私の音はこれだ!」と言わんばかりの気合の入った楽曲ばかりが収められている。
作詞、作曲、編曲、歌、プログラミングなど、すべての作業をソヌ・ジョンア本人が手がけた本作は、今どきのポップなサウンドに、ジャズのコードや70年代の洋楽のエッセンスをさりげなく入れているのが特徴だ。ゆったりとしたグルーヴはスワンプロック的で、各楽器の温かい音色はキャロル・キングの名作『つづれおり』に似た味わいがある。とはいえ、メジャー感はあまりなく、むしろ退廃的なムードがうっすらと漂っているのがユニークなところ。そして歌声は、ケイト・ブッシュのように天真爛漫であったり、エディット・ピアフのように情熱的だったりと変幻自在――。こうした「~的」「~に似た」「~のような」という表現を多く使うことを、おそらく彼女は喜ばないだろう。しかし、偉大な先輩アーティストたちの影響を感じさせつつ、聴けば瞬時にソヌ・ジョンアだとわかる独自の世界を作り上げているのは、やはり最も評価すべきポイントだと思うのだ。
日本での知名度はまだ低いが、実力は間違いなく韓国でトップクラス。K-POPのアイドル勢に飽きてきた方、欧米のロック&ポップスを普段聴いている方なら、「マストバイ」のアーティストである。