「グロテスク・ジャズ」、「キワ物」、「ギミック」、「曲芸師」、「サーカスもどき」etc… その演奏スタイルから、このように揶揄され過小評価されてきた男ラサーン・ローランド・カーク。
昨今ようやく再評価され、ワーナーミュージック・ジャパンより「JAZZ BEST COLLECTION 1000」のシリーズで、2013年2月に日本初CD化された本作は、カークが没した1977年に発売された最晩年のアルバムである。
その演奏スタイルとは、3本の管楽器を同時に演奏したり、またはフルートを鼻と口で2本同時に演奏してみたり、循環呼吸を使ってブレスなしのロングトーンを演奏したり、サイレンやホイッスルなども用いてみたりと、確かに曲芸的だ。映像で見ても、盲目の彼がいつでもすぐに必要な楽器を演奏できるように、それら全てを首から肩からぶらさげていて異様といえば異様であるが、ジャズとは本来自由なもののはず、実にユーモアがあって楽しい。
このアルバムは、そのラサーン・ローランド・カークの音楽や人生哲学等の全てがギュッと凝縮されたような1枚である。まずは、モントルーでのライブ演奏による「カッコーのセレナーデ」に始まり、レオン・ラッセルのヒット曲「ジス・マスカレード」とスタンリー・タレンタインの名曲「シュガー」のカバー、そしてカークの音楽ルーツであるニグロ・スピリチュアルズやゴスペルを感じさせる短い混声コーラスの古い音源をはさんだ後は、テナー・サックスによるムーディーな演奏が光るオリジナル曲「ステッピン・イントゥ・ビューティー」と、「クリスマス・ソング」が続く。
LPレコードならばB面の1曲目にあたる「バグパイプ・メドレー」は、これもモントルーでのライブ音源で、演奏しているのはバグパイプではなく、テナー・サックス、マンゼロ、フルートの3本同時演奏によるもの。その後にメアリー・マックラウド・ベシューンという黒人女性の地位向上運動を行った活動家の演説が挿入されていて、カークの思想をちらりと感じさせる。オリジナル曲「ブライト・モーメンツ」ではコーラスと共演し、「リリコノン」では、リリコンというウインドシンセサイザー(管楽器)を演奏している。そして、ディジー・ガレスピーの名曲「チュニジアの夜」のグルーヴ感あふれるカバーの後は、再びモントルーでのライブ音源による「J.グリフのブルース」で、聴いていても息苦しくなるような循環呼吸のロングトーンで盛り上げ、最後にカークを紹介するMCで幕を閉じる構成は、アルバムを通してひとつのドラマを観終わったような気分にさせてくれて、思わず拍手したくなる。
クールに、ブルージーに、そしてエモーショナルに、カークの体全体からあふれ出る音楽を、ジャンルも超えて様々な方法で奏でて見せて、聴かせてくれる、とっても贅沢でゴージャスなアルバムなのだ。