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RECORD STORE DAY JAPAN SPECIAL TALK
アナログレコードの魅力を語る【2】

出演:後藤正文/DJ Mayu
—supported by Yoshino Trading—


2013年10月11日(金)18:00~19:00
有楽町 東京交通会館12F ダイヤモンドホール内 ヨシノトレーディングブース

駄目なジャケットも含め「ジャケ買い」はデジタルでもCDでもないアナログならではの楽しみ方だという

後藤:聴く側に準備が必要なのがレコードなのかな、機材揃えたり、針落としたりとか、でもそのくらい惜しまずに使ってもいいかな、というのが自分としてのリスナーとしての態度っていう感じが僕はします。ただで聴けるって言うのもいいんだけど、友達の音源とかも呉れたりするんだけど、やっぱりお金出して買ってあげたいと思う。さっ、Mayuちゃんの次の曲は?

Mayu:これかな、Hotel New Tokyo。

後藤:これはおそろいですね、僕も持ってるんですが、曽我部恵一さんのレーベル、Rose Recordから出てる7インチの新曲なんですが、これをいいオーディオシステムで聴くとどうなのか、凄い興味有るよね。

Mayu:うん、あるある。

後藤:90年代のデジタルでレコーディングしたリマスタリングしたアナログ音源が最近良く出回ってるんだけど、これが良くない。驚く程よくない。多分、Pro Toolsが出回り始めて初期の頃にレコーディングされたもの。今は大体レコーディングのサンプリングレートが48khzなんだけど、この当時はもっと低い44.1khz 16ビットで録音されていたと思うのね。いわゆるカメラで言う所の解像度が低いデジカメで撮影したものを、どんなに技術を駆使して印画紙に焼いてもきれいに写らないのと同じで、どんなにリマスタリングしてアナログの溝に彫っても、音は良くはならない、元の音質が悪いから。次は一番最新の日本のレコード音源を聴いてみたいのだけれど、なんか、ほとんど趣味じゃん、お前らのトークショーとか言いながら(笑い)では、聴いて頂きます。Hotel New Tokyoで「Succession」


【Hotel New Tokyo「Succession」】

後藤:なるほど。これキックのLOWの音(バスドラム)がさっきのWILCOだと握りこぶしでいうと、より奥深くまで入っている、けど今のはそれがちょっと浅い感じがする。まあ録音環境にも由るとは思うのですけど。

Mayu:なるほど。年代も違いますしね。

後藤:まあ、どこで溝を掘ったかにもよるんですけど(レコード盤の溝)あっ、ちなみに溝を掘る技術者と言うのが存在するんですよ。今、そういう技術者がどんどんいなくなっているというのも現実です。スタジオもドラムの音を打ち込みでやれるようになって大きなスタジオがどんどん消滅しています。宅録技術も進んで、まあ時代の流れなんですけどね、いいとか悪いとかではなく、ただちょっと寂しいですよね。

Mayu:そうですね。さっき掛けた曲、今日気付いたんですけれども、レコードの中にダウンロードコードが入っているんですね。だから同じ音をスマートフォンで聴きたい人も居ると思うんですけれども、それが可能になってる。ダウンロードコードが添付されているレコード、最近結構増えてて。

後藤:最近殆どそうなってきましたよね。ただ、UK盤は殆ど入ってなくて、ただでさえ高いのに。アメリカ盤は殆ど入っていますね。でもね、イギリスはレコード屋が沢山有って凄く楽しかった。CDショップは殆どなかったけれど。そうそう、レコード屋で商品をレジに持っていくと中身見せてくれて、傷チェックとかさせてくれるんですよ。聴きたければレジの後ろにターンテーブルが在って、ヘッドホンが刺さっていて聴けるんですよね。これもそこで買ったのですが、聴いてみましょうか。80年代のヒップホップがどんなものだったか。

えーと、The Sugar Hill Gangの「8th Wonder」多分日本のヒップホップの黎明期、いとうせいこうさん辺りが影響受けたんじゃないですかね。しかし、ひどいジャケですね。(笑い)まあジャケ買いはしないだろうなって。ジャケットもレコードの一つの魅力だと思うんですけど、これは最高にださい(笑い)ですねぇ。

Mayu:あははは、ゲイミュージックみたいな。


【The Sugar Hill Gang「8th Wonder」】

後藤:いやぁ、もう完全にキックの音がバチっと来るでしょ。いや中古だけどいい音だな。いま、このいいスピーカーで気付いたんですけど、キックの音よりもラップの方が前にいますよね。ラップがちょっと突っ込み気味でしたよね。いやあこのスピーカーで聴くとそんなところまでわかっちゃう。

Mayu:ラッパーがどこに立っているのかが見えるようですね。

後藤:立体感を感じるよね。

Mayu:どんどん欲しくなってきちゃいますよね。

後藤:さあMayuちゃん、どんどん行きましょう。なにか思い入れを語れるのってないの?

Mayu:そっか、思い入れか・・・えーと7インチホルダーってあります?

Mayu:Bee Geesの「Love you Inside Out」という曲です。

後藤:これにはどんな思い入れがあるの?

Mayu:大体女の子がレコード買い始めるのって男の人の影響が大きいと思うんですけど。これがまさにそれで(笑い)最初はBee Geesのじゃなく、Feistっていう女の子シンガーのカヴァーで知ったんですよ。で、オリジナルがBee Geesだって言う事を調べて、普通そこまでしないんですけどね。

後藤:しかし、これもダメジャケ典型ですね。でもダメジャケ好きな人っていうのもいるんですよね。普通iTunesでジャケ買いはしないよね。

Mayu:しない、こんな小さい(手で囲みを作りながら)ジャケットじゃわからないですもの。

後藤:そうするとどういうことが起きるかって言うと、いいジャケットデザイナーがいなくなるんですよね。これもせつないですねぇ。

Mayu:うん、あっゴッチさんてミックスCDとか作った事あります?自分でミキサーいじりながら。

後藤:いや、ミキサーいじりながらはないけど、マイベストソングCDは作ったことありますけれど。

Mayu:そうそう、それでその・・・男の人にプレゼントされたCDの中にこのFeistのInsid outが入っていたんです。(FeistのヴァージョンはLove youがなく、Inside outというタイトル)

後藤:なるほどね(笑い)じゃ、早速聴いてみましょうか。


【Bee Gees「Love you Inside Out」】

後藤:これはコンプが凄い効いてますね。コンプって言うのは上を切るというか押さえる為のもので、コンプレッサーというエフェクターなんだけれども。

Mayu:それは何の為に使うのですか?

後藤:えーと、音量ってやっぱり上げられるだけ上げたいじゃないですか。ボーカルとかでもそのままボリューム上げると音が割れちゃうから、それを一番大きい所で押さえる役割、平均的に均すために掛ける。普通に僕らもレコーディングで使っていますけど、それを掛けすぎるとなにが起きるか、ダイナミクスが無くなるし、音の強弱がどんどん狭まってきちゃう。音の凹凸が無くなっちゃう。日本のCDでも沢山使っているけど、最近インディーではそれをやめようという流れが出始めていて、特にパンクの連中が試聴機でガーン!!という迫力で聴かせたくて良く若いバンドが使いたがるんだけど、もう音量戦争はやめようというインディーの連中も出てきて、今は二極化になっています。で、ラウドロックの人達はトリガーというのを使って例えばキックの音を均一的に揃えちゃうっていうのをやっていますね。

Mayu:それは人間の手でですか?

後藤:いや、機械的にドラムのキックに反応するようにトリガーを掛けて全部同じ音圧にしてダイナミクスを無くしてしまうから、バンドなのに人間的な感じがなくなっちゃう。と、レコーディングの現場ではいろんな試行錯誤が行われているという話でした。あとね、パンね、音が右行ったり左行ったり、あれ苦手なんだよね。

Mayu:でも、DJのミキサーってパン機能がついているからクラブとか行くとゴッチさん酔っちゃいますよ。

後藤:もう、この音はここでこれはここで動かないで欲しい。みたいな。昔のボブ・ディランのライブとか聴くとハーモニカが鳴ってる場所が見える。さっきのライブ盤でも観客の後ろにいる人が大声で叫んだ事とかがわかる。それがレコード聴く楽しみでもあるし、スピーカーで聴く楽しみでもある。

Mayu:うん、空気を感じますよね。

後藤:最近は電車で音楽聴く時でも、イヤホンはやめてヘッドホンにしてるんだけど、イヤホンだと高音部が痛いんだよね。あれ?俺こんなにハイハットの音チンチンさせてたっけかな、とか思う。っていうか、そもそも電車の中で音楽聴いてる時点でどうなのよって事なんだけど(笑)

Mayu:聴く人の環境によって色々と変わりますよね。

後藤:創り手としてはそれをどうこう出来ないですからね。どんなに細心に音創っても、これはもう悩んでも仕方ない。でも、唐突ですけれどもレコードっていいですよね、やっぱり。

Mayu:唐突にまとめてきましたね(笑い)で、ゴッチさんレコード何枚くらい持ってるんですか?

後藤:2〜300枚ですね、殆どLPですけれども。MayuちゃんはDJやってるから7インチの方が多いんじゃないの。

Mayu:そうですね、あと12インチですね。片面に一曲ずつしか入っていないんですけど。ジャケットが可愛いですよね。

後藤:うん、それと溝を掘る情報量が盤面の面積に対して少ないから、より多くの情報量を掘る事ができる。

Mayu:そうすると音が良くなるんですか?

後藤:盤面に対して狭い空間に溝を掘るよりも広い空間に掘れるからねさっきのキックのこぶしと同じで、深く広く掘れるから。隣の溝の音と干渉し合わない。だから音のダイナミクスが7インチやLPよりも幅が広くなる。12インチや10インチだと片面一曲だからかなり贅沢な音になるよね。

Mayu:そうなんですよね、だからDJの時はこれを数十枚持っていくのだけれど、やっぱりCDに比べて柔らかいし、音質もいいですよね。

後藤:CDだと聴こえなくていい成分まで聴こえるけれど、アナログだとその辺りをばっさりとカットしちゃうから、でかい音で聴いてても浴びてて気持ちいいよね。それが魅力だね。佐野元春さんに一度お会いした時に教えて頂いたのだけれど、70年代のレコードが一番いい音だって仰ってました。

Mayu:えっ聴き比べたんですかね。

後藤:えーと、技術的にはレコードの時代のピークだったから、レコードの音で一番いい音を創ろうとしたわけで、CDはまたCDとして一番いい時代や音があるし、例えば今は、レコードを着地点として作っていないから、最初からレコードを作るぞってやっても技術的には当時には適わない。あと物理的な事もあって、やっぱり音数少ない方が一つ一つの音の抜けが良くて、今のロックのバンドって中音域が一番多いのだけれども、その辺りにぎっしりと音詰め込むからもう渋滞起こしちゃってる。石野卓球さんが言ってたのだけれども、今のロックバンドはCDの方がいいかもって。

Mayu:ああ、なるほど。

後藤:テクノってレコードでしか出さないものがあり過ぎるから。

Mayu:DJ目線からしたらそうかもですね。


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